「失念」した同僚と、気づけない上司。組織のバグで「本当に苦労する人」のためのサバイバル戦略
先日、ある自治体で「マイナンバーカードの更新手続きを約4ヶ月間放置し、書類を隠し持っていた職員が懲戒処分された」というニュースが報道されました。
この手のニュースが出ると、世間からは「個人の怠慢だ」「上司は何を見ていたんだ、見て見ぬふりか」という厳しい声が真っ先に上がります。
しかし、かつて大きな組織の中で、数多くの現場と人組織の力学を見てきた私たちから言わせれば、事態はそう単純ではありません。現場の上司たちは、決して「見て見ぬふり」をしていたのではないと思うのです。
ただ本当に、「気づけなかった」。それが組織のリアルな構造です。
■ 「見えない化」する現場と、気づけない上司
多くの職場、特に公的な組織や巨大なシステムの中では、一人ひとりの業務が高度に専門化・ブラックボックス化しています。 上司自身も自分のプレイヤー業務や果てしない調整事に追われ、部下の机の引き出しの奥にある「4ヶ月前の書類」を検知する術を持っていません。
ミスをした本人も、最初から隠蔽しようとしたわけではないはずです。「うっかり忘れていた(失念)」という小さな躓きが、時間が経つにつれて「今さら言えない」という恐怖に変わり、自分で抱え込んでしまう。
ですが、本日ここで考えたいのは、処分された本人のことでも、気づけなかった上司のことでもありません。
この状況において、「いま、現場で本当に一番苦労しているのは誰か」ということです。
■ 一番大変なのは、「残された周りの職員」である
それは間違いなく、その職員の周辺にいる同僚や、同じチームのメンバーです。
4ヶ月間ストップしていた業務のリカバリー、紛失したカードの再処理、そして何より、ニュースを見た市民や顧客からの厳しい問い合わせやクレームの嵐。その最前線に立たされ、泥水をすするような思いで穴埋めをしているのは、何の罪もない「真面目に働いていた周りの職員」に他なりません。
「なぜ、あの人のミスのせいで、自分がここまで擦り切れて残業しなければいけないのか」
「普通に仕事をしている自分が、どうしてこんなに割を食うのか」
今、そんな理不尽な状況の中で、怒りと無力感に震えながら、必死に現場を支えている方がたくさんいるはずです。本当に、本当にお疲れ様です。そして、大変な毎日をよく堪え忍んでいらっしゃると思います。
だからこそ、私たちは伝えたいのです。 他人のミスや、組織の構造のバグに、あなたの人生やメンタルまで「引っ張られて」はいけない、と。
■ 周りに引っ張られないための「仕事の仕方」と「スキルの身に付け方」
崩壊しかけた現場の空気に引きずられず、自分自身の身を守りながらパフォーマンスを維持するためには、マインドだけでなく「具体的な仕事の技術」が必要です。
私たちが提唱したいのは、以下の2つのアプローチです。
1. タスクの「個人商店化」を徹底的に拒否する(仕組みの防衛)
今回の事件が起きた最大の原因は、業務の進捗が「本人の頭の中」にしか無かったことです。 もしあなたが今、他人のカバーに追われているなら、あるいは自分の仕事を守りたいなら、すべてのタスクをホワイトボードや共有のデジタルツールに「全公開」する仕組みをチームに(あるいは自分だけでも)導入してください。 「誰が、何を、どこまで持っているか」を全員の目に晒すこと。それは、仕事をサボる人を監視するためではなく、「真面目なあなたが、他人の見えないミスの連帯責任を負わされないため」の、最大の自己防衛策です。
2. どの組織でも生き残れる「ポータブルスキル」を意識的に回収する
他人のミスのリカバーや、修羅場のクレーム対応に追われている時、心の中は「最悪だ」という感情で満たされるかもしれません。しかし、視点を少しだけ変えてみてください。 今あなたがやっている「ぐちゃぐちゃになった業務の交通整理」や「タフな交渉・危機管理」は、教科書には絶対に載っていない、市場価値の極めて高いスキル(ポータブルスキル=持ち運び可能な強み)そのものです。 「私は今、この組織のバグを利用して、他では手に入らない『圧倒的なトラブル解決能力』をタダで身に付けている最中だ」 そうやって、目の前の過酷な経験を「自分の未来の市場価値」へ強引に変換してしまうしたたかさを持ってください。
■ あなたの真面目さを、組織のバグに消費させないで
大きな組織の力学や、他人の行動をコントロールすることはできません。 ですが、「他人のミスにどこまで自分の心を付き合わせるか」は、あなた自身がコントロールできます。
今、身近な不祥事や周囲の機能不全によって、息苦しさや理不尽さを感じている皆様。
どうか、その「真面目さ」や「責任感」を、組織の歪みのために使い果たしてしまわないでください。
あなたはあなたの仕事をし、あなたのスキルを磨き、あなたの人生を守る。 理不尽な現場の渦中にいるすべての方々を、ガバメントデザインは心から応援しています。


