「どちらが全額もらえる」は大きな誤解!公共事業の立ち退きで揉めない借地権補償金・立ち退き料の配分ルール
公共事業に伴う立ち退き(用地買収)において、対象となる土地が「借地」だった場合、補償金や立ち退き料は地主と借地人のどちらに、どのように支払われるべきなのでしょうか。
結論から言うと、「地主が十割もらえるわけでも、立ち退きだからと借地人が全額もらえるわけでもない。そして、行政がその割合を勝手に決めてくれることもない」ということです。
当事者間で「どちらが多くもらえるか」の感情的な対立に陥るケースは少なくありません。今回は、立ち退きにおける借地権補償の正しい仕組みを紐解きながら、双方で損をせず円滑に合意形成に至るための現実的なアプローチを解説します。
1. 公共事業の立ち退きで「地主全額」「借地人全額」にならない理由
用地買収において、行政(起業者)は「土地の所有権(底地)」と「借地権」を、それぞれ独立した価値のある権利として取り扱います。
ここでよく見られるのが、「自分の土地なのだから立ち退き補償金はすべて自分が受け取るべきだ」という地主側の主張や、「立ち退きを迫られて家を失うのだから、立ち退き料として借地人が全額受け取るべきだ」という借地人側の主張です。
しかし、法的な権利関係において、土地の価値は双方の権利が重なり合って成立しています。行政がどちらか一方の主張に肩入れすることはなく、「双方の合意」がない限り、行政側は契約を進めることも、補償金を支払うこともできないのが実務のリアルな構造なのです。
2. 借地権の立ち退き補償金で損をしないためのポイント
双方が納得のいく形で手続きを進めるためには、以下のポイントを正しく理解しておく必要があります。
① 補償金の配分割合は「当事者間の話し合い(協議)」が原則
行政が提示する土地の補償総額(買収額)をどのように分けるか(配分割合)は、地主と借地人の「話し合い」によって決定するのが原則です。
よく「税務署の路線価図に書かれている借地権割合(例:60%や70%)で自動的に決まるのでは」と思われがちですが、あれはあくまで相続税などの課税評価における基準に過ぎません。公共事業の補償金分配においては、過去の契約経緯や地代の支払状況などを考慮しながら、当事者間で合意した割合が最優先されます。
② 行政は「合意書」をもとに個別に支払う
行政が間に入って「地主が〇割、借地人が〇割」と強制的に決定してくれるわけではありません。 当事者間で配分割合に合意し、「配分協議書(合意書)」を作成して提出して初めて、行政はそれぞれに対して個別の補償金額を確定し、指定口座へ直接振り込みます。
③ 建物・庭木・フェンスなどの物件補償は「実際の持ち主」へ
「土地(権利)」の補償とは別に、立ち退きに伴う建物や設備の補償(物件補償・移転補償)が発生します。これは地主と分け合うものではなく、実際の所有者(持ち主)に対して個別に支払われます。
- 借地人へ: 借地人が所有する建物、自分で設置した物置や設備、引っ越し費用(移転料)など
- 地主へ: 地主が所有する敷地内のブロック塀・フェンス、地主が植えた庭木(立木)や井戸など
「誰の所有物か」を事前に整理しておくことも、立ち退きトラブルを防ぐ重要なポイントです。
まとめ:立ち退き通知が届いたら今日からできる具体的一歩
立ち退きの通知が届いたからといって、焦って相手方と対立する必要はありませんが、「税金の特別控除(5,000万円)」が適用されない場合もでてきます。損をせず、円滑に合意へ至るために、まずは以下の具体的なアクションを起こしてください。
- 賃貸借契約書を再確認する:借地権の範囲や内容、過去の地代の履歴などの客観的事実を整理する。
- 敷地内の所有者を整理する:建物だけでなく、フェンスや庭木などの所有者が誰なのかを確認しておく。
- 行政の提示額の内訳を聞き取る:土地全体の評価総額がいくらになっているのか、担当者から丁寧な説明を受ける。
- 路線価の借地権割合をベースに協議を始める:合意の目安として、まずは対象地の「借地権割合(路線価)」を基準に、お互いの納得できる妥協点を探る。
■ 引用・参考資料
- 国土交通省「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」
- 国税庁「財産評価基本通達(借地権の評価)」
- 租税特別措置法(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例等)

